静脈奇形はどんな病気ですか?
大きさや部位、深さ、中の状態によって見た目や柔らかさは変わります。皮膚の深いところにある場合は、色はなく膨らんだ腫瘍ですが、皮膚の浅い部分にあると拡張した静脈の中の血液が透けて見えるため、青紫色、暗赤色です。血液が溜まっているため柔らかいか、少し張りがある硬さのことが多いですが、圧迫したり、心臓より挙げると萎み、圧迫を解除したり、下げると戻ります。中に血栓や血液が固まった石(静脈石)が溜まっていると、硬いものが触れます。
最近、血管腫・血管奇形と遺伝子の関係が注目されていますが、静脈奇形はその中でも一番最初に遺伝子の異常が見つかった病気です。主にTEK(TIE2)遺伝子、PIK3CA遺伝子の異常が報告されています。
どんな症状がありますか?
通常は腫脹、色調、変形などの外観状の問題が大きく、特に痛みなども感じないことが多いです。しかし成長に伴って徐々に増大し、症状が悪化することが多いです。
手足など四肢の広範囲・深部発生の場合にはその中で静脈石ができたり、血栓性静脈炎を起こすことで、局所(その部分での)の痛みに悩まされることがあります。また範囲や場所によっては左右の足の長さの違い(脚長差)や関節が動かしにくくなる(関節拘縮)場合もあります。
また静脈奇形の局所の血管内では、血栓ができやすい状態となっています。そこで血栓が起こると、全身の血液を固める成分(凝固因子)のバランスが崩れ、出血しやすくなります。特に巨大、または多発する静脈奇形では、手術などの際に、血が止まりにくくなる可能性があるため、注意が必要です。
どんな種類がありますか?
単発のものがほとんどです。深さ、発症部位毎に呼び方があり、皮膚表面の浅いものを表在性(皮膚・皮下組織)静脈奇形、深いものを深在性静脈奇形と呼びます。表在性は皮膚表面に青紫色の蛇行した血管が透けて見えるため診断がしやすいが、深在性の場合は皮膚表面から腫瘤として触れるのみなので、判断が難しいです。静脈奇形であれば、静脈血で充満しているため、患部を圧迫したり、心臓より高い位置に上げる(挙上)ことによって、収縮する(萎む)ことがリンパ管奇形との診断を分けるポイントとなります。また超音波やMRI検査などで内容を評価し、区別することもできます。
発症部位毎に筋肉内静脈奇形、顔面部静脈奇形、手指部静脈奇形、咽頭部静脈奇形と呼ばれ、それぞれに対応が異なることもあります。まれに全身に多発するものもあり、特に皮膚や消化管などに多発し、貧血や重度の凝固異常を起こすものは、青色ゴムまり様母斑症候群と呼ばれています(トピックス)。
また家族性皮膚粘膜静脈奇形と呼ばれる遺伝性の静脈奇形もあります。この病気は皮膚や粘膜に小さな静脈奇形が多発する病気で、常染色体顕性(優性)遺伝形式となります。その他に、グロムス静脈奇形、脳海綿状血管腫(奇形)などもあります。
病変の深さによるタイプ
表在性静脈奇形 | 皮膚表面の浅いもの。血管が浮き出て見えたり、青紫色に見える。静脈奇形とわかりやすい。 |
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深在性静脈奇形 | 皮下の深いもの。血管が透けて見えず、ふくらみとしてわかる程度で、診断が難しいことも。 |
病変の部位によるタイプ
筋肉内静脈奇形 | 咬筋内や四肢の筋肉(特に下肢、大腿)の中に起こり、疼痛、腫脹、神経障害が起こる。 |
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顔面部静脈奇形 | 顔面の様々な部位(前額、頬、眼瞼、口唇など)に起こり、整容面で問題となる。 |
手指部静脈奇形 | 単発、多発に手指に病変が起こり、疼痛、腫脹、醜状変形などが起こる。 |
咽頭部静脈奇形 | 咽頭や舌部などに病変が起こり、悪化すると疼痛、出血、呼吸障害が起こる。 |
その他の静脈奇形の疾患
青色ゴムまり様母斑症候群 | 皮膚、消化管粘膜に多発する静脈奇形を持ち、消化管出血、貧血、凝固異常が起こる稀な静脈奇形。(発展編を参照) |
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家族性皮膚粘膜静脈奇形 | 家族性(常染色体顕性遺伝)に皮膚や粘膜に多発静脈奇形を認める。(発展編を参照) |
グロムス静脈奇形 | 若年成人の四肢末梢、爪甲下に硬い赤紫から青紫の硬結として認める。 |
脳海綿状血管腫(奇形) | 頭蓋内に起こる静脈奇形で、無症状のこともあるが、出血や頭痛、けいれんなどで発見されることもある。 |
どんな経過をたどりますか?
通常は出生時から存在し、自然消退せずに、成長に伴って症状が進行するといわれています。そのため、疼痛や腫れ、大きさの増大に気づくのが小児期以降であることも多く、成人になってから見つかる場合もあります。
静脈奇形は経過中に突然腫れることがあります。その場合は、内出血か感染を起こしていることが多いです。内出血は強い痛みを伴いますが、治療法は無く、安静と鎮痛薬で自然に治るのを待ちます。病変に細菌感染を起こすと、蜂窩織炎といい、熱感、腫脹、疼痛が起こり、抗生剤治療が必要となります。これらの腫れは一時的で数週間から数ヶ月で改善しますが、繰り返すこともあります。
出血や感染だけでなく、様々な外的な刺激(けが、骨折などの局所の傷害)や思春期、月経などのホルモンの変化をきっかけに、徐々に症状が悪化することがあります。また大きな病変は凝固異常を伴い、血栓を作ったり、血栓による静脈炎(血栓性静脈炎)を繰り返すこともあります。最終的に血栓が石灰化し、静脈石となり、疼痛の原因となります。
治療法を教えてください。
整容面、機能面で症状がある場合、病変の大きさや分布、切除可能かどうかによって治療を選択します。
主に硬化療法か切除術、または保存的治療として圧迫療法、抗凝固療法などがあります。
01
手術、切除術
小さく限局した病変など、完全に切除できると判断された場合は切除術が良い適応になります。また硬化療法が難しいとされる眼窩内病変や手指病変などにも考慮されます。ただし、巨大病変の部分切除は大量出血につながる恐れもありますので慎重な検討が必要です。
02
硬化療法
超音波や血管造影を行いながら、直接病変に針を刺し、硬化剤を注入します。手術の難しい、巨大病変や境界が不明瞭な病変では第一選択となる治療です。ただ複数回行っても完全消失は困難であり、症状の緩和にとどまることも多いです。硬化剤は無水エタノール、オレイン酸モノエタノールアミン、ポリドカノールなどが用いられています(現時点では全て保険適応外のため、施設毎に対応が異なります)。
03
保存療法
弾性ストッキングや着圧サポーターの着用による圧迫療法は、血液の貯留を減らし、疼痛の緩和、血栓・静脈石形成の予防、凝固異常の軽減に効果があるとされています。患者さんの体型、病変に合わせて作るオーダーメイドストッキングなどもあります。
限局性血管内凝固障害、血栓症への治療、または血栓・静脈石予防として抗凝固療法(アスピリン、ワルファリン、低分子ヘパリンなど)が行われることがあります。そのほか、脚長差や肥大などに対し、歩行器具、矯正器具などを使用することもあります。
生活で注意すべきことなどはありますか?
怪我や出血をしないように保護することや、広範囲の病変に対しては血栓・静脈石形成予防のため弾性ストッキングなどの着用をお勧めします。下肢成長に伴う脚長差はアンバランスな歩行に繋がるため、定期的な診察、脚長差測定を行い、必要に応じて装具を作りましょう。
有効な飲み薬(内服薬)はありますか?
シロリムスを静脈奇形の患者さんに投与すると、病気の勢いを抑え、症状が改善したという報告が海外から多数出ています。病変の縮小効果や、出血、疼痛、貧血などの症状の改善がみられています。その効果は全員に認めたわけではありませんが、効果が期待される薬剤です。国内では2019年から医師主導治験が実施され、良好な結果でした。
そのため、2024年1月に「静脈奇形、青色ゴムまり様母斑症候群」に承認が下りました。
その他、PI3K阻害剤など新しい薬剤の研究、治験も国内外で進められています。
静脈奇形の症例写真、経過の紹介
発展編
静脈奇形はどんな遺伝子異常が
関係するのでしょうか?
静脈奇形は血管腫・血管奇形(脈管奇形)の中でも、一番最初に遺伝子の異常が見つかった病気です。まず最初に、家族性皮膚粘膜静脈奇形患者の家系より、TEK(TIE2)遺伝子の生殖細胞系列の変異(遺伝子の一部が変化すること)が検出されました。生殖細胞系列とは、血液や他の皮膚など全身の細胞から検出されるというものです。でも、全身の皮膚全てが異常になるわけではなく、その異常が静脈奇形の発症とどのように関わっているか、不明でした。
その後に、家族性皮膚粘膜静脈奇形患者の病変部位からTEK遺伝子の後天的な変化(セカンドヒット)が検出されました。このように遺伝子異常が重なることによって、発症の引き金になっているのではないかと考えられました。
2009年以降、家族性ではない単発の静脈奇形の病変部位からも遺伝子異常が多数見つかりました。これは遺伝子解析の技術が発展したため、細胞の一部にしかない異常も検出できるようになったためです。これまで静脈奇形では、主にTEK(TIE2)、PIK3CA遺伝子の異常が見つかっていますが、この遺伝子異常をマウスなどに起こすことで、静脈奇形と同じ状態が起こるという研究報告がされています。これらの遺伝子異常は機能獲得型変異といい、遺伝子の働きが活性化し、関連するタンパク質の働きを強めることで、血管やリンパ管などの細胞の機能が活性化し、病気の発症に関わっていると考えられます。
また最近では、これらの遺伝子に関わるタンパク質を抑える作用のある薬が治療薬として注目されています。これらは「分子標的治療薬」と呼ばれ、代表的なものがシロリムスです。
常染色体顕性(優性)遺伝って何ですか?
静脈奇形は遺伝しますか?
遺伝の仕組みと遺伝形式について説明します。ヒトの染色体は22対の常染色体と1対の性染色体(女性はX染色体2つ、男性はX染色体、Y染色体1つずつ)の計46個からなります。子どもは両親が持つ1対の染色体のうち1本ずつを引き継いで産まれますので、生じる染色体の組み合わせパターンは4通りがあります。
常染色体顕性(優性)遺伝とは、一組の遺伝子の一方に変異があると発症する遺伝形式です。両親のうち、どちらかに病気の原因となる遺伝子変異があった場合、その子どもが50%の確率で同じ病気になります。血管腫・血管奇形(脈管奇形)では、家族性皮膚粘膜静脈奇形、オスラー病が有名です。これらの病気は原因となる遺伝子変異を持つ場合に発症すると言われていますが、同じ家系の同じ遺伝子変異でも、発症時期や症状はばらつきがあります。
またその他の静脈奇形や多くの血管腫・血管奇形(脈管奇形)には遺伝性はなく、孤発性(その患者さんだけ)のため、遺伝はしません。「血管腫・血管奇形は遺伝子異常によって起こる」といいますが、あくまでも病気の部分のみに起こっている遺伝子の異常です。これを「体細胞変異」といいます。反対は、生殖細胞変異といい、精子や卵子に起こっている遺伝子変異は、常染色体顕性(優性)遺伝などの形式で、親から子へと受け継がれます。
限局性血管内凝固障害(LIC)って、
何が起こっているのですか?
静脈奇形やリンパ管奇形など(混合型脈管奇形を含む)の低流速型脈管奇形の病変部位の血管は、複雑に蛇行し、一定の流れではなく、血流が滞り、乱れ、よどむことがあります。また血管の障害、炎症が起こることによって、内皮細胞が活性化し、凝固、凝固因子の消費を来しやすく、血栓が起こりやすい状態が揃っています(血栓形成の要因、ウィルヒョウの三徴)。
病変部で微小血栓が多発し、固まったものが静脈血栓症、深部静脈血栓症になります。小さいものは問題になりませんが、大きなものが肺などに飛ぶと肺血栓塞栓症、エコノミークラス症候群(ロングフライト症候群)を起こす危険性があります。特に拡張血管のある静脈奇形やクリッペル・トレノネー症候群など大きな四肢の病変に起こりやすいです。血栓症は疼痛、腫脹、熱感などを起こし、肺血栓塞栓症を起こすと呼吸困難、胸痛などを起こします。
限局性血管内凝固障害(Localized intravascular coagulopathy、LICといいます)が慢性的にある患者さんは、微小血栓が多数作られることによって、全身の血液を固める成分(凝固因子)が慢性的に不足しているため、いざという時に血が止まりにくい(出血傾向)ことがあります。また部分切除を行ったり、病変近くでの怪我や骨折などの外的要因、感染、硬化剤でも悪化することがあり、注意が必要です。
血液検査では、フィブリノーゲンの低下、D-ダイマーの上昇、血小板数の軽度低下を認めます。
大きな病変、疼痛のある静脈石、深部病変を持つ患者さんは重症度が高かったとする報告もあります。特にD-ダイマーは血栓症が起こっていることの良い指標になります。リスクの高い患者さんは手術や血管内治療を行う前に血液検査を行うことをお勧めします。
限局性血管内凝固障害に使用される抗凝固薬
経口アスピリン | 疼痛、腫脹軽減すると言われるがエビデンス不明(血小板凝集と限局性血管内凝固障害は因果関係が不明) 副作用:出血 |
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ワルファリンカリウム |
疼痛、凝固異常、DVTに効果 |
ヘパリン類(低分子ヘパリン) |
疼痛、凝固異常、DVTに効果 予防的投与(0.5mg/kg/dose) 1-2回 術前14日間 12-24時間前に中止、術後12-24時間で再開し、14日間 問題:皮下注でQOL下げる、長期投与が難しい、骨粗鬆症 |
経口活性化凝固第X因子阻害薬 (Xa阻害薬)(リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン) |
まだ症例報告程度 |
直接トロンビン阻害剤(ダビガトラン) | まだ症例報告程度 |
現時点では、確立された治療法はありません。高リスクの患者さんに血栓症、凝固異常が起こるということを理解し、個々に対応が必要です。以前から抗凝固薬である経口アスピリン、ワルファリンカリウム、ヘパリン類などが使用されています(表)。
手術時の血栓症の予防のため、低分子ヘパリンを術前、術後に使用することも勧められていますが、皮下注射で長期の投与が必要なため、現実的ではありません。また最近は、直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)という、経口活性化凝固第X因子阻害薬(Xa阻害薬)、直接トロンビン阻害などの新しい薬剤が開発されてきています。これらの薬剤の作用点をまとめると、DOACはLICで進む凝固カスケードを抑制するため、効果的である可能性がありますが、現時点では症例報告程度のデータしかありません。
青色ゴムまり様母斑症候群ってどんな病気?
青色ゴムまり様母斑症候群(Blue Rubber Bleb Nevus Syndrome:BRBNS)は、全身の皮膚、皮下と消化管に静脈奇形が多発する非常に稀な疾患です。多くは出生時から小児期に出現しますが、成人になってから見つかる場合もあります。皮膚の静脈奇形が独特なゴム乳首様の青味を帯びていることから、1958年にWilliam Beanにより命名されました。原因は不明とされていますが、病変部位よりTEK(TIE2)遺伝子の異常が見つかっています。
全身の皮膚、皮下、特に体幹や上肢に好発し、成長に伴って増加、増大しますが、自然消退はありません。消化管にも起こり、吐血や下血を起こしたり、慢性的な鉄欠乏性貧血の原因となります。また中枢神経、肝臓、脾臓、腎臓、肺、心臓、甲状腺、筋肉などにも病変を伴うとされています。皮下の病変が気管、消化管の閉塞を起こすこともあれば、多発病変による圧迫や、出血などを合併すると命に関わる場合もあります。
血液検査では慢性的な消化管出血や、静脈奇形内での血液消費による鉄欠乏性貧血や多発する病変内での血栓形成、凝固因子の消費による限局性血管内凝固障害(LIC)のため、フィブリノーゲンの低下、D-ダイマーの上昇、血小板数の軽度低下を認めることがあります。消化管病変の検索は内視鏡や、カプセル内視鏡が有用です。全身の皮膚病変はCT検査、もしくはMRI検査なども用います。
治療は対症療法が基本です。大量出血時は輸血が必要なこともあります。軽症の場合は、止血剤(トランサミンなど)がよく使用されます。また慢性的な鉄欠乏性貧血に対しては鉄剤を投与します。消化管病変からの急激な出血に対しては内視鏡的治療や外科的切除が必要になります。最近は、シロリムスの高い治療効果が期待されています。国内で医師主導治験(SIVA治験)が実施されました。その結果、2024年1月に薬事承認されました。