乳児血管腫以外の血管性腫瘍

血管性けっかんせい腫瘍しゅようはどんな病気ですか?

血管の細胞が生まれつきか、生まれた後に大きくなる腫瘍しゅようです。乳児血管腫が一番多いですが、その他にも似た血管性腫瘍があります。ここでは小児に起こりやすい乳児血管腫以外の血管性腫瘍について取り上げます。

良性りょうせい腫瘍と
悪性あくせい腫瘍の違いは?

腫瘍というと、「“がん”なのかどうか」が皆さんの一番心配なことかと思います。“がん”とは、悪性あくせい腫瘍しゅようといい、急速に腫瘍細胞が正常な臓器をむしばみ(浸潤しんじゅん)、他の臓器に転移てんいすることで命に関わる病気です。そのため、手術抗がん剤放射線療法など、強い治療が必要になります。

一方、良性腫瘍とは、浸潤や転移をせず、周りの組織を押しのけるようにしてゆっくりと増える腫瘍のことを指します。大きさや発生する場所に寄っては症状が出ることがありますが、手術で取り切れれば、再発も無く治癒します。

血管性腫瘍のほとんどが良性りょうせい腫瘍しゅよう良性型りょうせいがた)であり、代表は乳児血管腫です。その他、先天性血管腫せんてんせいけっかんしゅ房状ぼうじょう血管腫けっかんしゅがあります。

また局所きょくしょ浸潤しんじゅん境界型きょうかいがたといい、良性と悪性の間の性質で、悪性ほどではないですが、増えるスピードがやや早く、正常な臓器に浸潤しんじゅんすることがある、厄介な病気が含まれています。カポジ肉腫にくしゅよう血管内皮細胞腫けっかんないひさいぼうしゅが代表的な病気です。

あく性型せいがたは非常に珍しく、血管けっかん肉腫にくしゅという病気がありますが、血管腫・脈管奇形診療の範囲を超えるため、ここでは取り上げません。

病気の診断は、発症した時期や経過、外観や触診による診察所見が重要です。これによって多くの病気は診断がつくでしょう。超音波ちょうおんぱ検査けんさやMRIなどの画像がぞう検査けんさは病気の範囲を判断したり、診断の補助となります。それでも診断が難しい場合も時々あり、その場合には生検せいけんといい、直接、腫瘍の一部を切除して、病理びょうり検査けんさを行います。その結果によって、最終的に診断が決まることもあります。

乳児血管腫と先天性血管腫の違いを
教えてください

乳児血管腫と先天性血管腫は、大きくなる時期や症状の経過が違います。

乳児血管腫は生後数週で出現し、大きくなっていきますが、先天性血管腫の場合は、出生直後が最も大きく、その後、急激に小さくなるタイプ(急速退縮性)とゆっくり部分的に小さくなるタイプ(部分退縮性)、小さくならないタイプ(非退縮性)があります。生まれた直後から血管腫がある場合は、先天性血管腫を疑って下さい。

乳児血管腫は表面はイチゴのように赤く、柔らかいことが多いですが、先天性血管腫は皮膚の表面に出ず皮下に潜っていることが多く、青紫色で比較的触れると硬いことが多いです。退縮すると、皮膚の張りが無くなりますが、伸びた皮膚が残ります。

乳児血管腫と先天性血管腫の違い

先天性血管腫は出生時より存在するため、ご家族の心配も大きいことでしょう。治療法は、乳児血管腫と異なり、特別な治療法はありません。多くの場合、経過観察となります。中には、眼など重要臓器の周りの巨大病変や、出血、潰瘍を起こしている場合、心不全など重症化している場合は、手術など何らかの治療介入が必要となることがあります。

また退縮した後に毛細もうさい血管けっかん拡張かくちょうしたような跡皮膚のたるが残ることがあります。その場合も手術を行うことがありますので、主治医の先生と相談しましょう。

その他の血管性腫瘍を
教えてください

血管腫(血管性腫瘍)の種類(ISSVA分類より)
良性型
  • 乳児にゅうじ血管腫けっかんしゅ
  • 先天性せんてんせい血管腫けっかんしゅ
  • 房状ぼうじょう血管腫けっかんしゅ
  • その他※1
局所浸潤・境界型
悪性型
  • 血管肉腫
  • その他※3

1 紡錘型細胞血管腫、類上皮血管腫、化膿性肉芽腫など2 網状血管内皮細胞腫、乳頭状リンパ管内血管内皮細胞腫(Dabska腫瘍)、複合型血管内皮細胞腫、カポジ肉腫など3 類上皮型血管内皮腫

その他の血管性腫瘍の中では、房状ぼうじょう血管腫けっかんしゅカポジ肉腫にくしゅよう血管内皮細胞腫けっかんないひさいぼうしゅが乳幼児期に発症しやすい血管腫です。これらは皮膚からさらに奥の内臓近くまで発症することもあり、痛みも伴います。またカサバッハ・メリット現象げんしょう症候群しょうこうぐんという重症な血液の病気も合併するため、注意が必要です。カサバッハ・メリット現象を起こさなくても、乳児血管腫や先天性血管腫のように、自然に小さくなることはほとんどありません。乳幼児期に、「硬くて、どんどん大きくなる、痛みを伴う」場合には、これらの血管腫を疑った方がいいでしょう。

治療法は状態によって様々ですが、無治療の場合は経過観察が多いです。まれに切除、持続圧迫療法、放射線治療が行われます。カサバッハ・メリット現象に対しては様々な治療を組み合わせて対応します。

乳児血管腫以外の血管性腫瘍の症例写真
経過の紹介

乳児血管腫以外の血管性腫瘍患者さんの実例を紹介します。

カサバッハ・メリット現象(症候群)はどんな病気ですか?

房状血管腫とカポジ肉腫様血管内皮細胞腫の腫瘍の中で、血液が異常に固まってしまうことによって生じる現象を言います(この2つ以外では基本的には起こりません)。血管腫の部分では異常な細胞がたくさんあり、血小板けっしょうばんがその場で固まって、消費されます。そのため、全身では血小板が足りなくなってしまい、血が止まりにくい状態になります。そのことを、カサバッハ・メリット現象(症候群)といいます。種性しゅせい血管内けっかんない凝固ぎょうこ症候群しょうこうぐん(DIC)とも呼ばれる状態の一つです。

カサバッハ・メリット現象の病変内で起こっていること

カサバッハ・メリット現象が起こっていることは、血液検査をしてみないとわかりません。大きな血管性腫瘍のある患者さんで、鼻血など出血が止まりにくい足に出血斑しゅっけつはんがある腫瘍の部分が急速に大きく、硬くなった時は要注意です。血液検査値(主に血小板数、フィブリノーゲン、D-ダイマーの値)が異常となっていないか調べてもらいましょう。異常が無かった場合も、定期的に主治医の先生に診察いただくと良いでしょう。

管理が非常に難しく、原則、入院が必要です。血小板数が低く、血が止まりにくいので、検査も十分できないことも多いです。病変が大きく、正常な組織に浸潤しているので、手術などで切除することも難しいです。そのため薬物療法が主となります。ステロイド免疫めんえき抑制剤よくせいざい)、ビンクリスチンこうがんざい)をよく使用しますが、副作用が強いです。最近は、シロリムスが著効することがわかり、現在、日本で治験が進んでいます。いずれ日本でも使用できるようになることが期待されています。

カポジ肉腫様血管内皮細胞腫に発症した
カサバッハ・メリット現象(症候群)のイメージ

カポジ肉腫様血管内皮細胞腫に発症した カサバッハ・メリット現象(症候群)のイメージ

やや硬く、熱感を持ち、紅から黒赤色。腫瘍は全身の皮下に起こるが、四肢や体幹などが多い傾向。カサバッハ・メリット現象が起こると、出血しやすくなるため、皮下の腫瘍内で出血を起こし、急激に腫脹することもある。

カポジ肉腫様血管内皮細胞腫に発症した カサバッハ・メリット現象(症候群)のイメージ

皮下に腫瘍細胞が増殖する。カサバッハ・メリット現象により、腫瘍の内部で内出血も起こしている部分も見られる。

患者さん、皮膚断面はイメージです