リンパ管奇形(リンパ管腫)

リンパ管奇形はどんな病気ですか?

管状くだじょうである正常のリンパ管が風船のように異常に膨らんだものを「リンパ嚢胞のうほう」と呼び、中にリンパ液が溜まります。リンパかん奇形きけいは大小のリンパ嚢胞によって起こる先天性(稀に後天性)の疾患です。全身どこでも発生しますが、特に首や脇が多いです。

以前から「リンパかんしゅ」と呼ばれていますが、最近はISSVAの潮流に合わせ、「リンパ管奇形」と呼ばれることが増えています。

リンパ管奇形は大きく、リンパ嚢胞が局所に起こるタイプと、全身のいろいろな臓器に起こるタイプに分けられます。いわゆる「リンパ管腫」は同じ場所に1〜複数個のリンパ嚢胞が起こります。全身のいろいろな臓器に起こる「リンパ管腫症」は主に胸部(肺、心臓)や腹部(脾臓、消化管)、骨などにリンパ嚢胞や異常なリンパ管が増える非常に稀な病気です。

先天性のリンパ管奇形はまだお母さんのお腹の中にいる、胎生期たいせいき(胎児がリンパ管を作る時期)に何らかの異常が起こり、先天性に発症するのではないかと考えられています。そのため、出生前診断され、生まれてすぐに処置を行う場合もあります。また最近、PIK3CA遺伝子RAS遺伝子などの異常による発症機序が注目され、研究が進められています。

リンパ管奇形(リンパ管腫)の種類
局所
  • 嚢胞状(大きな嚢胞)、海綿状(スポンジ状のもの)
    ISSVA分類では、嚢胞の大きさによって、大嚢胞状(マクロシスティック)小嚢胞状(ミクロシスティック)もしくは混在した混合型に分けられる
  • 限局性リンパ管腫(皮膚に起こるもの)
全身性、多発性
  • リンパ管腫症(カポジ型リンパ管腫症も含む)
  • ゴーハム病
  • リンパ管拡張症
その他 原発性リンパ浮腫

ISSVA分類を元に作成

局所の「リンパ管腫」は、どのような症状がありますか?
どんな経過をたどりますか?

最も多い「嚢胞状のうほうじょうリンパ管腫」は大きなリンパ嚢胞(1cm以上)からなるもので、小さなリンパ嚢胞(1cm未満)の場合は、「海綿状かいめんじょうリンパ管腫」と呼ばれます。また皮膚表面に小さな水疱としてみられるものを「限局性げんきょくせいリンパ管腫」と呼びます。リンパ管腫は皮下の柔らかい腫瘤で、静脈奇形と違い、圧迫しても小さくなりません。

最も多い嚢胞状リンパ管腫は、頚部や腋窩の皮下に大きな嚢胞が起こることによって、外観上の問題だけでなく、気管への圧迫による呼吸困難や他の重要臓器への圧迫症状が問題となります。海綿状リンパ管腫も皮下にびまん性に腫脹がみられる以外は目立った症状は出ませんが、時々、内出血や感染、または感染ではないリンパ管炎のような状態(非化膿性炎症)が起こり、疼痛、腫脹を起こします。

1歳頃までに自然に退縮、消退する場合もありますが、多くは不変です。経過中に病変内部の出血や細菌感染、もしくは非化膿性炎症を起こし、発熱や局所炎症のため、安静や抗生剤治療を必要とする場合があります。また治療が著効し、縮小、もしくは問題の無い大きさとなれば、予後は良好です。

外からは柔らかいリンパ嚢胞が膨らみとして触れる。時々、内出血を起こすと、急激に腫れ、血腫や嚢胞の壁が硬く触れることもある。炎症(細菌感染もしくはリンパ管炎)を起こすと赤く腫れ、熱感も伴う。

局所の「リンパ管腫」は、どのような症状がありますか?どんな経過を辿りますか?

皮下に袋状になった大小のリンパ管が増えている。通常のリンパ管と交通のあるリンパ管腫とそうでないものもある。

患者さん、皮膚断面はイメージです

全身性の「リンパ管腫症」は、
どのような症状がありますか?
どんな経過をたどりますか?

リンパ管腫のように局所ではなく、たくさんの臓器広い範囲に異常なリンパ管リンパ嚢胞が出現した状態を「リンパ管腫症かんしゅしょう」と呼んでいます。胸部(肺、心臓)や腹部(脾臓、消化管)、骨などに多発することが特徴の非常に稀な病気です。類縁疾患に、ゴーハム病、リンパ管拡張症がありますが、症状が非常に似ているので、区別することが難しいです。

リンパ管腫症は脳を除く全身の臓器に発生します。例えば、胸部では縦隔じゅうかくはい胸膜きょうまく心臓しんぞうなどに異常なリンパ管組織が発生したり、リンパ液が漏れ、胸水きょうすい心嚢水しんのうすいが溜まるため、胸痛呼吸困難などの重症な症状が起こり、時に命に関わります。他にも腹水脾臓の多発嚢胞消化管出血なども起こります。リンパ液がリンパ管の外(胸腔・腹腔など)に漏れ出ることによって、低蛋白ていたんぱく血症けつしょう低アルブミン血症低ガンマグロブリン血症となります。また病気の部分で血液の凝固が過剰に起こり、凝固障害(Dダイマー上昇や血小板減少など)を起こすこともあります。

リンパ管腫症の症状

リンパ管腫症は胸水など胸部病変があった場合は、予後不良という報告があるため、積極的な治療が必要です。胸水だけでなく、腹水などのリンパ液の漏出がひどい場合は、蛋白が漏出し、低アルブミン血症など起こすため、何度も補充療法が必要となることがあります。

治療法を教えてください。

リンパ管腫の主な治療法は、外科的切除硬化療法薬物療法です。四肢、体幹部の限局したリンパ管腫病変であれば、切除が可能な場合があります。そうでない場合は、硬化療法を行います。

全身性のリンパ管腫症については、病変が多発性、びまん性であるため、外科的切除は困難なことが多く、対症療法や薬物療法が主となります。

薬物療法は以前からインターフェロン漢方薬プロプラノロールなどが試されていますが、2021年にシロリムスが保険適応となり、使用することができるようになりました。

発展編

「ゴーハム病」はどんな病気ですか?
リンパ管腫症との違いを教えてください。

リンパ管腫症とゴーハム病は、どちらも異常なリンパ管組織によって起こる病気です。骨が溶ける、胸水が溜まるなどの症状は共通していますが、大きな違いは、骨の溶け方にあります。

リンパ管腫症の場合は骨の中(髄質成分)から溶け、骨折までは起こさないことが多いです。逆にゴーハム病は硬い骨の殻(骨皮質成分)そのものが薄くなり、先細りし、弱るため骨折を起こします。リンパ管腫症の骨病変は多発性で進行しないとされていますが、ゴーハム病は一度溶けたところから、連続して関節を超えて溶けていくのが特徴です。ゴーハム病でも胸水が起こりますが、それは胸部の骨(主に肋骨、胸椎)が骨溶解を起こすことによって、その部位からリンパ漏があるために起こると考えられています。

  リンパ管腫症 ゴーハム病
骨が溶けやすい場所 骨の中(髄質成分) 硬い骨の殻(骨皮質成分)
骨の溶け方、進行の特徴 多発、散在性(とびとび)
進行はあまりしない
1箇所から連続、関節を越える
急激に進行することがある(急に進行が止まることもある)
骨折のしやすさ

骨折しにくい(骨の外側は残っているっことが多いため)

リンパ管腫症

骨折しやすい(骨の外側、硬い部分が細くなるか、消失するため、もろくなりやすい)

ゴーハム病

「リンパ管拡張症」はどんな病気ですか?

リンパかん拡張症かくちょうしょう」は身体の中心部のリンパ管が先天的に拡張、狭窄を起こすことで、リンパ液が漏れたり、手足の浮腫ふしゅ(むくみ)を起こす病気です。

リンパ管からのリンパ液漏出によって、胸水腹水蛋白たんぱく漏出性ろうしゅつせい胃腸症いちょうしょうによる下痢低アルブミン血症が起こります。また拡張、狭窄したリンパ管の末梢の四肢の浮腫を認めます。このようにリンパ管腫症と症状が似ていますが、原因は異なります。反対に、骨溶解は起こさないと考えられています。

「リンパ管拡張症」はどんな病気ですか?

「原発性リンパ浮腫」はどんな病気ですか?

原発性げんぱつせいリンパ浮腫ふしゅ」は先天的にリンパ管の低形成ていけいせい無形成むけいせい機能不全きのうふぜんが起こることによって、主に足にリンパがうっ帯し、浮腫を起こす稀な疾患です。これまでの研究で、FOXC2、VEGFR-3、SOX18などの遺伝子異常と病態の関連性が指摘されていますが、まだわかっていない疾患も多いです。

足背部や下腿の皮下浮腫や疼痛などを認め、蜂窩織炎、色素沈着なども起こします。悪化すると、血流障害や皮膚潰瘍、リンパ漏、機能障害、ごく稀にリンパ管肉腫などの悪性腫瘍を発症することもあります。

超音波検査やMRI検査、リンパ管シンチグラフィーインドシアニングリーン色素(ICG)を用いた蛍光リンパ管造影などで評価をします。治療法は確立されていませんが、保存的治療として患肢挙上、運動制限、マッサージリンパドレナージ)療法、圧迫療法(弾性包帯、弾性ストッキング)、外科的切除、脂肪吸引、リンパかん静脈じょうみゃく吻合術ふんごうじゅつなどが行われています。

それぞれの診断が難しいです。
具体的な診断法を教えてください。

リンパ管腫は超音波によって、壁(隔壁構造)のある大小の嚢胞がみられれば、診断できます。病気の大きさや範囲を知るためには、MRI検査が有用です。

リンパ管腫症、ゴーハム病の場合は、症状に応じてX線検査CT検査MRI検査などを行い、病変の大きさ、数、範囲などを評価します。悪性腫瘍など他の病気と診断がつかない場合など、診断を確定するためには、病変部位を一部外科的に採取して、病理検査を行い、リンパかん内皮ないひ細胞さいぼうが拡張した像などが認められたら確定です。骨の病変は十分な組織が採れないことも多く、判定ができないこともあります。

リンパ管拡張症の場合、中心リンパ管などの拡張、狭窄、および漏出部位の同定のため、リンパかんシンチグラフィーリンパかん造影検査ぞうえいけんさを実施することがあります。リンパかん静脈じょうみゃく吻合術ふんごうじゅつなど新たな治療戦略と並行し、これらの検査方法も進歩してきています。

最近の研究では、様々なリンパ管奇形の病変部位からPIK3CANRASKRAS遺伝子の異常の検出が注目されています。診断が難しい場合や難治例は治療に結びつく可能性もありますが、まだ現段階では遺伝子解析検査に保険適応はありません。特定の専門施設の研究室レベルにて、遺伝子解析の研究が実施されています。(希望される方は主治医を通じて研究班にお問合せ下さい)

 

具体的な治療法を教えてください。

リンパ管腫の主な治療法は、外科的切除硬化療法薬物療法です。四肢、体幹部の限局したリンパ管腫病変であれば、切除によって治癒が見込める場合があります。そうでない場合は、硬化療法を行います。硬化剤はOK432(ピシバニール)ブレオマイシン無水エタノールなどですが、使用薬剤に保険適応があるのはOK432のみです。超音波ガイド下で直接穿刺し、リンパ液を吸引した後、OK432を注入します。治療後に局所の炎症(発赤、腫脹、疼痛)が起こりますが、その後、3ヶ月ほどで病変が縮小します。効果をみて、数回繰り返します。嚢胞状リンパ管腫には効きやすいですが、海綿状には効きにくいとされており、切除が次の選択肢となります。薬物療法は以前からインターフェロン漢方薬プロプラノロールなどが試されていますが、2021年にシロリムスが保険適応となり、使用することができるようになりました。

リンパ管腫症、ゴーハム病については、病変が多発性、びまん性であるため、外科的切除は困難なことが多く、対症療法や薬物療法が主となります。胸水が貯留し、呼吸苦がある場合は、胸腔穿刺、ドレナージや胸膜癒着術、胸管結紮術などを行います。また放射線照射をしたという文献報告もありますが、これらの治療法は確立されていません。

薬物療法としては、リンパ管腫と同様、様々な治療が試されてきましたが、海外よりシロリムスによって、胸水などの減少や症状の改善を認めることが報告され、リンパ管腫と同様に2021年9月に保険適応となっています。
リンパ管腫症の骨病変はあまり進行しないため、無症状であれば無治療とすることも多いですが、ゴーハム病の骨病変は、硬い骨が溶けるため、骨折や痛みが起こりやすく、固定術など整形外科的な手術が必要な場合もあります。進行性の場合は、シロリムスにビスフォスフォネート製剤RANKLランクル抗体などによって、進行を抑制することがありますが、シロリムス以外の薬剤については現時点で保険適応はありません。

リンパ管拡張症は漏出部位が同定されれば、外科的に切除ないし硬化療法を行うことが効果的だと考えられますが、難しい場合が多いです。

胸水、腹水による蛋白漏出が重篤な場合、低アルブミン血症、低ガンマグロブリン血症となり、アルブミン製剤ガンマグロブリン製剤の投与が必要な場合があります。ガンマグロブリン製剤は静脈注射が主流でしたが、最近、皮下注製剤が新しく開発されたため、在宅で投与も可能となっています。