血管腫・血管奇形の分類について
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「血管腫・血管奇形(脈管奇形)」
「脈管異常」とはなんですか?
全身には血管およびリンパ管(脈管)がはりめぐらされています。血管は動脈と静脈、毛細血管に分かれ、全身の臓器に血液を介して栄養や酸素などを送っています。リンパ管は目では確認しづらいですが、血管と同じように全身に分布し、黄色いリンパ液が流れています。リンパ液は血管から滲み出した体にとって重要な液で、毛細リンパ管からリンパ管に送られ、最終的に静脈に合流します。
「血管腫・血管奇形(脈管奇形)」とは、血管、リンパ管のいずれかが、生まれつき、もしくはその後に異常に増殖したり、形態の異常を起こしたものをいいます。血管(奇形)という言葉には、リンパ管(奇形)は含まれないため、最近では「血管奇形」を「脈管奇形」と呼ぶ流れがありますが、まだまだ広まっていません。ここでは現状を踏まえ、「血管奇形(脈管奇形)」と記載しました。また総称して「脈管異常」と呼ばれることもあります。
どうして病名がたくさんあるのでしょうか?
血管腫・血管奇形(脈管奇形)は、いろいろな病気が含まれていますが、それぞれ増える細胞の種類や、増える時期、勢いなどの特徴が違い、病気毎に正式な病名が付けられています。
しかし、これまで十分な研究がなされていなかったため、しっかりとした区別がされていないのが現状です。また古くから使用されている病名は見た目や性状を表したような曖昧な呼び方が多いです(例:いちご状血管腫、海綿状血管腫)。このように歴史的に様々な病名が付けられ、たくさんの呼び名が現在でも使用され続けています。また「血管腫」と一括りにして呼ばれることもあります。
最近では、血管腫・血管奇形のそれぞれが、特徴を持った異なる病気であり、正確な診断をすることによって、治療法に結び付くこともわかってきました。本HPによって、そのことを是非、ご理解頂けたら、幸いです。
「血管腫(脈管性腫瘍)」と
「血管奇形(脈管奇形)」との違い
血管腫(脈管性腫瘍)とは、脈管の細胞が腫瘍性または過形成の性格を持つものを指します。代表的な病気として「乳児血管腫(いわゆる、いちご状血管腫)」があります。乳児血管腫は生まれた後、血管内皮細胞が通常と異なる形(腫瘍細胞)で出現・成長し、数週間から数ヶ月で急速に大きくなり(増殖期)、その後に退縮します(退縮期)。他の血管腫も短期間の間に腫瘍が大きくなったり、小さくなることが特徴です。
一方、血管奇形(脈管奇形とも呼ばれる)は、腫瘍細胞ではなく、異常な構造形をした血管やリンパ管があることをいいます。生まれつきの皮膚のアザ(紅斑)や、血管やリンパ管が袋状になったものは「毛細血管奇形」、「リンパ管奇形」と呼ばれます。また静脈の塊は「静脈奇形」、静脈と動脈が繋がったものは「動静脈奇形」と呼ばれます。2つ以上の脈管奇形が混じった場合は「混合型脈管奇形」といいます。
病気の違いを理解するポイント
病気の違いは、どのように区別して整理されているでしょうか。
海外の研究者らが、病理検査の所見によって、病気の種類を細かく分けたもののことを「国際分類」と呼ぶようになり、現在では、学会や研究会で盛んに使用されるようになってきました。具体的には、腫瘍か奇形か、または毛細血管か、静脈か、リンパ管かなど、細胞のタイプや性質による違いによって分けられているため、正確な病気の理解に繋がるとされています。専門家の中では、別名、ISSVA(The International Society for the Study of Vascular Anomalies、脈管異常の研究の国際的な団体)分類と呼ばれています。
実際は完全に正確な診断を付けることは難しい場合もありますが、このタイプのこの病気に近いな、とわかることも大事です。そうすることで、「切除しかない」タイプ、「切除以外にも方法がある」タイプなど、治療法を決める手掛かりになります。
血管腫・血管奇形(脈管奇形)の国際分類
どのように見分けるか
具体的な見分け方の手順を示します。あくまでも簡易なもので、典型的ではないものやこれだけで判断できないものもあります。まず、「外観の特徴、触診の特徴」を見ます。また「発症時期(その病変がいつ発症したか)」が重要です。その後に増大したか、変化が無いかなどの「経過」や追加の所見などで見分けていきます。
典型的な病変であれば、診察経験のある医師ならば、診断は難しくないでしょう。それでも、非常に似ている病気もありますし、赤ちゃんの時期には、症状がはっきりとせず、まだ見極めが難しい場合もあります。そうした場合は、経過をみるとはっきりすることもありますが、それでもわからない場合もあります。いずれにしても、困っている症状がある場合は、早急な診断が必要となることもあるので、主治医の先生や専門医に相談をして頂くのが良いです。
ISSVA分類と従来の呼び方
ISSVA分類が作られる前は、きちんとした分類がなかったために、どの病気も「血管腫」と呼ばれていました。最近、ISSVA分類が国内外で普及していますが、現在もなお、現場では血管腫や従来からの呼び名が汎用されています。
例えば、「静脈奇形」は以前より「海綿状血管腫」と呼ばれています。しかし、ISSVA分類のように病理学的な見地からの病名ではなく、血管腫と全体的に呼ぶことによって、他の血管腫、腫瘍性疾患との区別を混乱させてしまい、正確な病気の特徴をとらえることが難しくなることが考えられます。
その呼び方が間違っているというわけではありませんが、現在では世界共通の病名であるISSVA分類での呼び方に合わせて、病気をきちんと理解することが重要ではないかと考えられています。そのため、担当する医師はISSVA分類を理解し、病気の特徴、検査などより正確な診断を付けるのが望ましいです。
ISSVA分類と従来からの呼び方
病気の国際分類(ISSVA分類) | 従来からの呼び方 |
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乳児血管腫 |
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毛細血管奇形 |
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リンパ管奇形 |
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静脈奇形 |
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動静脈奇形 |
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正確な分類、診断はどうして必要でしょうか?
正確な分類、診断をしないままだと、まず正確な治療に結び付かない可能性があります。手術で切除するべきかどうかだけでなく、どの薬を使えばよいかもわかりません。それぞれの病気対応や治療法が異なります。
また病気によって起こりえる合併症や経過などが違うため、正確に診断すると患者さんがその後に気を付けるべき症状や生活上の注意点なども具体的になるでしょう。
医師など医療者の場合は、診断があいまいだと患者さんへの説明や医師同士での情報共有も十分でなくなります。また共通の言語として、ISSVA分類を使用しなかった場合、研究や論文の発表や治験などの評価についても、十分な議論ができなくなる可能性が高いです。
血管腫・血管奇形(脈管奇形)の画像診断法
血管腫・血管奇形を正確に診断するために、画像検査をよく行います。“嚢胞性病変かどうか”“内部に血流があるか”“血流の状態(流速)”などを見極めることが重要です。また診断だけでなく、病変の範囲や、中で出血が起こっているかどうかなどの状態を知ったり、治療前後での大きさの評価など画像検査の役割は大きいです。よく使用する検査は、超音波検査、MRI検査です。放射線の被曝も無く、患者さんに安全に使用できるでしょう。また骨は単純X線検査、CT検査を使用します。
嚢胞性病変かどうかは超音波検査、MRI検査が有用です。内部の血流、流速はカラードプラ像を用いた超音波や造影MRI、CT検査が有用です。
超音波検査は皮膚に近い病変の大きさや嚢胞かどうか、血流の状態などを簡便に判断することが出来ます。体の表面に検査用のゼリーを塗り、超音波の出る器械(プローブ)をあてて検査を行います。痛みはありませんし、短時間で終わる検査なので、よく使用されます。
MRI検査は組織分解能が高いため、皮膚、脂肪、筋肉、骨内などへの血管腫・血管奇形の分布や性状などが正確に描出できます。また造影剤を使用すると内部の充実成分や血流などの評価も可能です。2方向以上の断面やシークエンス(画像の種類)などを駆使して、専門的な評価を行います。検査部位、内容によりますが、検査時間は20分~1時間程度かかります。
CT検査は短時間に広範囲に評価することが出来るためよく使用されますが、MRIよりも組織コントラスト(病変部と正常組織の濃度差)が不良となるため、完全な評価が難しい場合もあります。また放射線被ばくも問題となります。
単純X線検査は静脈奇形の静脈石の確認、リンパ管疾患の骨病変の評価、クリッペル・トレノネー症候群などの四肢の成長、左右差の評価に用います。
画像診断法の種類
レントゲン(単純X線検査)
特徴 | 骨や水分、脂肪などの体の組織によって放射線の透過特性(X線の通りやすさ)が異なることを利用。X線を一方向から体にあてると、体を通過したX線の差が濃淡の影としてモノクロ画像に現れます。 |
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検査の方法 | 金属やボタンなどが画像に映り込むため、検査着に着替えます。撮影部位によっては、体の位置を変えたり、息を止めたりすることが必要になります。 |
部位 | 骨、胸部、腹部など |
メリット | 比較的簡単に検査できる。5分程度と短時間で可能です。 |
デメリット | 少ないが放射線被曝(1回の胸部X線検査で受ける放射線量は0.06ミリシーベルト程度)あります。例えば、1年間の日常生活の中で受ける放射線の線量は平均2.1mSvと言われていますので、それよりも少ないです。 |
血管腫・ 血管奇形では? |
静脈奇形の静脈石の確認、リンパ管疾患の骨病変の評価、クリッペル・トレノネー症候群などの四肢の成長、左右差の評価など |
超音波検査(エコー)
特徴 | 体の表面に超音波プローブをあて、体内の臓器からはね返ってくる超音波を画像として映し出します。内臓の形など、動いているものをリアルタイムで見ることが出来ます。 |
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検査の方法 | 超音波が伝わりやすくなるように、体の表面に検査用のゼリーを塗ってから超音波プローブをあてます。検査する臓器によって、あおむけや横向きになったり、腕を上げたりすることもあります。 |
部位 | 腹部臓器、心臓、甲状腺など |
メリット | 放射線を使わないため、被曝が無い。簡単に実施。動いていても可能です。 |
デメリット | 空気や骨、脂肪などで超音波が減弱するため、肺や脳の検査ができない |
血管腫・ 血管奇形では? |
皮膚に近い病変の大きさや嚢胞かどうか、血流の状態などを簡便に判断することができます。 |
CT検査
特徴 | X線を使って体の中の吸収率の違いをコンピューターで処理し、体の断面を画像にします。断面にする画像の厚みの設定は、撮影する部位や検査の目的に応じて適切に決められています。検査の目的によっては、造影剤を使用する場合があります。 |
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検査の方法 | ベッドの上にあおむけになり、トンネル状の装置の中に入ります。撮影部位によっては、息を止めることがあります。検査全体にかかる時間は10~15分程度です。造影剤を使用する場合には、絶食とします。アレルギーにも注意が必要です。 |
部位 | 全身(頭、肺、腹部、骨など) |
メリット | レントゲンでは発見できないものを特定することも可能です。 |
デメリット | 通常のレントゲンより放射線被曝が多く、1回のCT検査で受ける放射線量は5~30ミリシーベルト程度です。そのため、放射線被曝よりも検査を受けるメリットを上回ると判断した場合に実施します。 |
血管腫・ 血管奇形では? |
骨などの評価、他の疾患との鑑別。リンパ管腫症などの肺の細かい病変を検出することができます。 |
MRI検査
特徴 | 強力な磁石と電波を使って、磁場を発生させる磁気共鳴現象を用い、物質による違いを画像で表します。 |
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検査の方法 | 撮影する部位にコイルと呼ばれる専用の用具を体に装着し、ベッドに寝た姿勢でトンネル状の装置の中に入ります。装置から工事現場のような大きな音がするため、検査中はヘッドホンや耳栓を装着します。検査時間は15~45分と長くかかります。体を動かさないようにします。 |
部位 | 全身(脳、肺、腹部、骨など) |
メリット | 断面だけでなく、縦断面なども可能。磁気なので人体への影響が少ないです。 |
デメリット | 検査時間が長く、大きな音がしたり狭い装置なので、閉所恐怖症などで苦手な方もおられます。ペースメーカー、人工内耳など機械類は磁石に反応するため、検査が受けられない場合があります。 |
血管腫・ 血管奇形では? |
病変部位の正確な分布、浸潤度などを評価できます。 |
血管腫・血管奇形(脈管奇形)の病理診断法
血管腫・血管奇形(脈管奇形)の診断において、診察所見や画像検査では診断が困難な症例に対して、病理検査を行うことがあります。また切除した組織が、術前の診断のとおりであるかを確認するということもあります。
方法は切除した腫瘍などの組織をホルマリンで固定し、薄く切ったものを、病理の専門家が顕微鏡で観察します。腫瘍細胞の形や、免疫組織染色といい、特殊な試薬によって細胞に色を付け、その染まり具合によって、細胞の種類や細胞増殖の程度を判定します。
血管腫・血管奇形(脈管奇形)の病理診断は複雑で、実際には、判断が難しい場合も多いです。最終的には年齢や経過、肉眼所見、画像所見などと総合して診断されています。
詳しい診断の方法や病理所見については診療ガイドライン、成書を参考にしてください。
病理診断に必要な染色法とは?
ホルマリン固定など、いろいろな処理を行った後、検査に必要な染色をします(1−2週間必要)。
ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色 |
HE染色は単に組織の形態を観察する目的で細胞核、細胞質を染色する方法。 細胞及び組織構造の全体像を把握する為に行う。 染色と標本の管理がよければ永久保存ができる。 |
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免疫組織染色 | 病気の鑑別のため、細胞内のタンパクを特異的に染色する抗体を使い、細胞の種類などを診断する方法。 乳児血管腫の場合は、GLUIT-1染色が陽性になるなど、見分けるために使用されている。 |
病理専門医が標本を顕微鏡で見て、所見より病理診断を行います。最終的には、主治医がその所見などから、総合的に確定診断します。