2023.06.30
「リンパ管奇形」に関する意識調査の集計結果(NPO法⼈リンパ管腫と共に歩む会)
「NPO法⼈リンパ管腫と共に歩む会」が今年、リンパ管奇形という病名、名称に関するアンケート調査を実施され、その結果を公開されました。
いわゆる「リンパ管腫」は、リンパ管の形が生まれつき大きくなる病気ですが、ISSVA分類に従うと、lymphatic(リンパ管) malformation(奇形)ということで、「リンパ管奇形」と日本語訳され、現在、使用されています。もともとリンパ管腫と呼ばれていましたが、「腫」には腫瘍という意味が込められているため、使用しない動きもありますが、結果的には、現在はどちらも使用する形となっています。本HPにおいては、学術的にこの病気を理解すべく、かつISSVA分類に忠実にするため、lymphatic(リンパ管) malformation(奇形)の訳として、「リンパ管奇形」を使用していますが、一般の方や非専門家の中ではあまり広まっていないこともあり、「リンパ管腫」も併記しています。
この「奇形」という言葉が、差別的か、侮辱的か?、医学用語として適しているか?ということに関して、医学界でも以前から課題となっており、現在も議論が続いているところです。今回、歩む会のアンケートでは、464名におよぶ当事者、ご家族、医師、医療者、また一般の方の意見が収集されていますが、同時に、様々な意見があり、この問題の複雑さ、難しさを物語っています。しかし、多くの意見を集めたということで非常に重要な結果であります。
日本血管腫血管奇形学会では、名前に奇形が含まれておりますし、設立当初から、このことに関して多くの議論がなされております。「用語を考えるワーキングチーム」も立ち上げられ、議論が進められていますが、現時点では「継続審議」という状況です。
「奇形」という言葉に関してはリンパ管奇形にとどまらず、静脈奇形、動静脈奇形、血管奇形、脈管奇形など血管腫血管奇形の他の疾患で使用されていますし、学会の名称や指定難病、小児慢性特定疾病など、日本の公的な場所でも使用されています。また動静脈奇形、心奇形、奇形腫など医学会には多くの「奇形」を含む言葉はあります。こうした医学用語の問題は、日本医学会において「医学用語管理委員会」が立ち上げられ、現在もなお議論が続いています。その中で、HP内でも紹介しましたが、例えば、遺伝形式に関して、「優性遺伝」、「劣性遺伝」に代わる推奨用語が「顕性遺伝」、「潜性遺伝」となるなど、一部の用語は徐々に置き換えられております。
常染色体顕性(優性)遺伝って何ですか?静脈奇形は遺伝しますか?
また用語表記法についても統一されるよう、「用語表記基本指針策定ワーキンググループ(WG)」が漢字、カタカナ、記号、区切り文字、書体など細かい点も検討され、基本的に「常用漢字表2010」を基本とすることなどが決められています。実は、医学用語の中ではその表に無い漢字が多く使われているのです。こうしたことは言語学のプロでないとわからないことであり、そのWGには医師以外、日本語学のプロも加わっています。
その中で、「不適切語を含む医学用語の検討WG」では主に「奇形」を含む医学用語について検討されています。2022年の検討会時点では、当学会以外の多くの学会(日本脳神経外科学会、日本整形外科学会、日本小児外科学会など)で、「奇形」を含む用語について、「改訂の方向で進める」「継続審議」となっており、医学会全体での今後の動向が注目されます。
今回、患者会が発端でのアンケート調査でしたが、やはり病名は患者さん、ご家族がどのように受け取るかを念頭に、医師だけでなく、当事者、一般の方、また言語学、翻訳学など専門家も交えた議論が必要であると感じました。
(文責:小関道夫)
【 疾患名「リンパ管奇形」に関する意識調査(実施期間:令和5年2月19日~3月31日)集計結果報告書】
【 疾患名「リンパ管奇形」見直しに関する要望書提出プレスリリース(配布日:令和5年6月29日)】
(歩む会に掲載承諾を得ています)