「リンパ管奇形」に関する意識調査の集計結果(NPO法⼈リンパ管腫と共に歩む会)

NPO法⼈リンパ管腫と共に歩む会」が今年、リンパ管奇形という病名、名称に関するアンケート調査を実施され、その結果を公開されました。

いわゆる「リンパ管腫」は、リンパ管の形が生まれつき大きくなる病気ですが、ISSVA分類に従うと、lymphatic(リンパ管) malformation(奇形)ということで、「リンパ管奇形」と日本語訳され、現在、使用されています。もともとリンパ管腫と呼ばれていましたが、「腫」には腫瘍という意味が込められているため、使用しない動きもありますが、結果的には、現在はどちらも使用する形となっています。本HPにおいては、学術的にこの病気を理解すべく、かつISSVA分類に忠実にするためlymphatic(リンパ管) malformation(奇形)の訳として、「リンパ管奇形」を使用していますが、一般の方や非専門家の中ではあまり広まっていないこともあり、「リンパ管腫」も併記しています。
この「奇形」という言葉が、差別的か、侮辱的か?、医学用語として適しているか?ということに関して、医学界でも以前から課題となっており、現在も議論が続いているところです。今回、歩む会のアンケートでは、464名におよぶ当事者、ご家族、医師、医療者、また一般の方の意見が収集されていますが、同時に、様々な意見があり、この問題の複雑さ、難しさを物語っています。しかし、多くの意見を集めたということで非常に重要な結果であります。
日本血管腫血管奇形学会では、名前に奇形が含まれておりますし、設立当初から、このことに関して多くの議論がなされております。「用語を考えるワーキングチーム」も立ち上げられ、議論が進められていますが、現時点では「継続審議」という状況です。
「奇形」という言葉に関してはリンパ管奇形にとどまらず静脈奇形動静脈奇形血管奇形脈管奇形など血管腫血管奇形の他の疾患で使用されていますし、学会の名称や指定難病、小児慢性特定疾病など、日本の公的な場所でも使用されています。また動静脈奇形、心奇形、奇形腫など医学会には多くの「奇形」を含む言葉はあります。こうした医学用語の問題は、日本医学会において「医学用語管理委員会」が立ち上げられ、現在もなお議論が続いています。その中で、HP内でも紹介しましたが、例えば、遺伝形式に関して、「優性遺伝」、「劣性遺伝」に代わる推奨用語が「顕性遺伝」、「潜性遺伝」となるなど、一部の用語は徐々に置き換えられております。
常染色体顕性(優性)遺伝って何ですか?静脈奇形は遺伝しますか?

また用語表記法についても統一されるよう、「用語表記基本指針策定ワーキンググループ(WG)」が漢字、カタカナ、記号、区切り文字、書体など細かい点も検討され、基本的に「常用漢字表2010」を基本とすることなどが決められています。実は、医学用語の中ではその表に無い漢字が多く使われているのです。こうしたことは言語学のプロでないとわからないことであり、そのWGには医師以外、日本語学のプロも加わっています。
その中で、「不適切語を含む医学用語の検討WG」では主に「奇形」を含む医学用語について検討されています。2022年の検討会時点では、当学会以外の多くの学会(日本脳神経外科学会、日本整形外科学会、日本小児外科学会など)で、「奇形」を含む用語について、「改訂の方向で進める」「継続審議」となっており、医学会全体での今後の動向が注目されます。
今回、患者会が発端でのアンケート調査でしたが、やはり病名は患者さん、ご家族がどのように受け取るかを念頭に、医師だけでなく、当事者、一般の方、また言語学、翻訳学など専門家も交えた議論が必要であると感じました。

(文責:小関道夫)

NPO法⼈リンパ管腫と共に歩む会

【 疾患名「リンパ管奇形」に関する意識調査(実施期間:令和5年2月19日~3月31日)集計結果報告書】
【 疾患名「リンパ管奇形」見直しに関する要望書提出プレスリリース(配布日:令和5年6月29日)】
(歩む会に掲載承諾を得ています)