混合型脈管奇形はどんな病気ですか?
混合型脈管奇形の
代表的疾患を教えてください。
◯クリッペル・トレノネー症候群
クリッペル・トレノネー症候群は、最も有名な関連症候群です。四肢に大きな毛細血管奇形と静脈奇形、リンパ管奇形(低流速型脈管奇形)と患肢の過成長、片側肥大を伴います。全ての症状が揃っていない患者さんもおられます。脚長差がひどくなると、歩行に支障をきたしたり、側弯症を起こし、姿勢が悪くなります。患部の痛みや感染、炎症が起こることがあります。大きな病変では、静脈奇形と同様に血栓を作りやすく、時に全身性の凝固異常を伴います。
◯パークスウェバー症候群
クリッペル・トレノネー症候群と類似している疾患として、パークスウェーバー症候群といい、毛細血管奇形に流速の早い脈管奇形(動静脈奇形、動静脈瘻)、患肢の過成長を伴うものもあります。動脈成分のため、皮膚の熱感や疼痛、リンパ浮腫などを起こしたり、重症化すると心不全を起こします。
クリッペル・トレノネー症候群とパークスウェバー症候群は似ているため、区別が難しいことがあります。そのため、指定難病、小児慢性特定疾病では「クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群」とまとめられています。
脈管異常の関連症候群
クリッペル・トレノネー症候群 Klippel-Trenaunay syndrome ( KTS ) |
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パークスウェバー症候群 Parkes Weber syndrome ( PWS ) |
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スタージ・ウェバー症候群 Sturge-Weber syndrome ( SWS ) |
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マフッチ症候群 Maffucci syndrome |
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クローブス症候群 CLOVES syndrome |
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その他 |
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(ISSVA分類を参考)
クリッペル・トレノネー症候群は
どんな経過をたどりますか?
典型的なクリッペル・トレノネー症候群の場合は、生まれた時から手や足などの脈管奇形と肥大に気づかれ、加齢や成長に伴って少しずつ増悪します。最初は無症状であっても、進行すると疼痛、皮膚潰瘍、出血、リンパ漏、感染などを合併することがあります。
日常生活で注意すべきこと、
気をつけた方がいい症状はありますか?
どのようにケアすると良いですか?
病変の急激な熱感や、疼痛、腫脹、しこりが触れるなど、普段と異なると感じた場合は、その場所で何かが起こっている可能性があります。例えば、感染(細菌感染、蜂窩織炎)や炎症、内出血です。硬いしこりは血栓(血の塊)や炎症かもしれません。放置せず、主治医の先生に相談すると良いでしょう。感染の場合は、抗生剤などの治療が必要となることがありますが、基本的には安静や冷却などの保存的治療になります。慣れてしまうと病院に行かないこともあるかもしれません。
こうした症状が続くと、病気は慢性的な炎症や血栓を起こすようになり、痛みやしこりが残るようになったり、少しづつ病変も大きくなることが多いです。
患部を清潔に保つ、保湿をするなど日頃のケアも重要です。また弾性ストッキングによる圧迫療法は、腫れや疼痛を軽減すると言われていますので、積極的に使用すると良いでしょう。
左右の足の長さに大きな差が出ること(脚長差)によって、不自然な歩き方となり、歩行が難しくなることがあります。定期的に長さをチェックし、脚長差が3cm以上となった場合は、手術や下肢補高装具の検討が勧められます。
その他の症候群では四肢の過成長、肥大の進行だけでなく、他の臓器の異常を合併することがあります。診断した症候群に合わせて、対応する診療科(眼は眼科、脳は脳外科など)と協力、連携して、一人の患者さんを複数の医師で診ていくのが望ましいでしょう。
クリッペル・トレノネー症候群の
治療法を教えてください。
根治的な治療法ではありませんが、それぞれの症状に応じた治療として、痛み止めや弾性ストッキングによる圧迫療法などが主になります。また切除療法、硬化療法、レーザーを行うこともありますが、重症例では生涯に渡り、症状と付き合っていくことになります。
脚長差に対しては、下肢補高装具や整形外科的矯正手術(骨端線成長抑制術、骨延長術)が行われます。また病変切除などの減量手術などが行われることもあります。凝固異常に対しては、血栓の予防として抗凝固薬を使用することもありますが、根本的には解決しません。
最近、クリッペル・トレノネー症候群はPIK3CAという遺伝子の異常によって起こっていると言われています。そのため原因となる分子を抑える「分子標的治療薬」が新しい治療薬の候補となっています。シロリムスはその中で最も早く開発されている薬で、クリッペル・トレノネー症候群にも効果が期待され、国内で治験が実施されました。その結果、2024年1月に「混合型脈管奇形、クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群」に薬事承認されました。
さらに、PI3K阻害剤という新たな治療選択も研究されてきており、国内の治験が実施されています。将来は薬によって病気の勢いを抑えることが可能になるかもしれません。
発展編
クリッペル・トレノネー症状群の
原因について教えてください。
2012年にKurekらは過成長症候群(出生時もしくは出生後に著明な体重増加, 頭部や四肢などの肥大をきたす疾患群の総称)のうち血管奇形の合併が特徴的なCLOVES症候群において、PIK3CA遺伝子の体細胞モザイク変異を発見しました。さらに、オーバーラップする特徴をもつクリッペル・トレノネー症状群においても同じPIK3CAの体細胞モザイク変異が見つかり、これが病気の原因ではないかと言われています。
このように細胞増殖、血管新生に重要な役割を果たしているPIK3CAに遺伝子異常が起こると、関係する遺伝子の経路(PI3K/AKT/mTOR経路)のタンパク質が活性化し、異常な働きを持つようになります(これを機能獲得型変異と読んでいます)。最近は、このようにPIK3CAの遺伝子異常によって起こる一連の過成長症候群はPROS(PIK3CA-related Overgrowth Spectrum)、PIK3CA関連過成長スペクトラム(症候群)と呼ばれるようになってきています。