血管腫・血管奇形(脈管奇形)と診断されたら…
あなた、もしくはご家族が「血管腫・血管奇形(最近は脈管奇形と呼ばれます)」と診断され、治療や将来のことなど、様々な不安を感じられていると思います。私たちは血管腫・血管奇形の診断や新しい薬物療法について研究している医師、研究者の集まり(研究班と呼ばれます)です。
血管腫・血管奇形には、いろいろな病気が含まれています。また同じ病名でも患者さんごとに経過や治療は異なりますので、患者さんに合わせた必要な情報にたどり着くのが難しい病気です。
ここでは患者さんや医療従事者の方のために、疾患、治療などについて、最新の情報をできるだけわかりやすく解説します。
「血管奇形」と「脈管奇形」って、何が違うのですか?
どちらも正しい言葉ですが、「脈管奇形」は「血管奇形」を含んだ呼び名です。
「血管腫・血管奇形」という病名は、これまで学会や診療の中でもよく使われており、現在でも学会名や教科書などでも用いられています。しかし、最近では「血管奇形」の中に「リンパ管奇形」が含まれないということから、血管とリンパ管を総合した「脈管」を使用した「脈管奇形」を使用されることが増えてきています。しかし、まだまだ広がっていないため、今回は「血管腫・血管奇形(脈管奇形)」と記載させて頂きました(脈管奇形は適宜、補足的に記載しています)。このように病気の呼び方もまだ完全に定まっていないことからも、この病気の難しさが感じられますね。
血管腫・血管奇形(脈管奇形)ってどんな病気ですか?
ほとんどが生まれつきか、子供の時に発症する血管・リンパ管の塊です。その中でも、「血管腫」と「血管奇形」は特徴が大きく異なります。
血管腫は腫瘍細胞が増殖・退縮するため、短期間(多くは数か月から1年程度)の間に大きくなったり、小さくなったりする傾向があります。
反対に、血管奇形(脈管奇形)は腫瘍と違い、大きさはほとんど変わりませんが、消えることはありません。長期的なスパンでは成長とともに増大するとされており、思春期や妊娠、感染、外傷などをきっかけに悪化することもあります。
どちらもその特性に応じてそれぞれ違った病名がつけられています。発生する場所や大きさ、症状によっては治療が長期に渡る場合もあります。よい治療法がなく、治りにくい状態は“難治性”と呼ばれますが、血管腫・血管奇形の代表的な病気は“小児慢性特定疾病”“指定難病”に指定され、医療費助成を受けることもできます。反対に、あまり症状が無く、困ったことがなければ、特に治療をしない人もいます。
また、出現する時期や場所、症状が異なるため、いろいろな診療科で診察をすることが多いです。小児科、小児外科、形成外科、放射線科、皮膚科、整形外科、耳鼻科など様々です。それぞれの専門性を活かし、患者さんに合わせた総合的な治療が必要なこともあります。
血管腫(腫瘍)と血管奇形の違い、治療法
血管腫(腫瘍) | 血管奇形(脈管奇形) | |
---|---|---|
病名 | 乳児血管腫(いちご状血管腫)、先天性血管腫、その他の腫瘍など | 毛細血管奇形(単純性血管腫)、静脈奇形(海綿状血管腫)、リンパ管奇形(リンパ管腫)、動静脈奇形、混合型脈管奇形など |
発症時期 | 主に乳幼児期 (先天性血管腫は生まれた直後に既にある) |
多くは生まれつき、または乳幼児期。 時々大人になってから発症することもある |
増殖(増え方) | 早い。その後、小さくなることもある。 | ほとんど増殖しない。 成長に伴って徐々に増大する場合もある。 |
起こる場所、症状 | 体中、どこでも発生する(脳脊髄などを除く)。症状は起こった場所や大きさによって様々。見た目だけでなく、周りの臓器に大きな影響が出ることもある。 | |
治療法 | 問題とならない場合は、小さくなるまで待つこともある。 発生した場所や大きさによっては、薬物療法やレーザーなども行う。 |
病気や症状によって違うが、手術やレーザー、硬化療法など様々。 薬物療法を行うこともある。 |
それぞれの病気はどうやって診断しますか?
多くの場合、発症した時期(生まれつき、乳幼児期、小児期、成人期など)や、発症後の経過(大きくなるか、小さくなるか、変わらないか)、見た目の所見(平べったいか、盛り上がっているか、赤いか、青黒いか)、触診(柔らかいか、硬いか)、形状などで判断ができます。
時々、身体の深いところの血管・リンパ管で、外からわからない場合や判断が難しい場合は、さらに詳しい検査をすることで診断します。
それでも、すぐに判断するのが難しい病気もあります。血管腫・血管奇形の経験豊富な専門医の先生であっても、診断に迷うことがあります。
しかし、正確な診断は正しい治療に結びつくため、非常に重要です。
もし、困っている症状が続いていれば、かかりつけの主治医の先生と相談し、専門の医師(各診療科の専門医、または日本血管腫血管奇形学会HPに記載されている血管腫血管奇形診療施設全国一覧を参考)への受診もご検討ください。
どんな治療法がありますか?
治療法は、外科治療(切除など)の他、硬化療法、塞栓術、レーザー療法、薬物療法、圧迫療法など様々です。病気ごとに治療法がある程度決まっていますが、未だに決められた治療法がない病気も多くあります。
病気によっては、適切な時期に治療を行うと非常に良い結果が得られることもあります。中には、いくつかの治療を組み合わせて治療することもあります。
また全ての患者さんに治療が必要というわけでもありません。自然に治癒する病気もありますし、治療による副作用、後遺症などの問題が見込まれるときは、治療を行わず経過観察するだけのこともあります。主治医の先生とよく相談しながら進めていくと良いでしょう。
新しい治療薬はありますか?
最近の研究成果で、病気について、いろいろとわかってきました。
また手術で取り除くのではなく、飲み薬で病気の原因を抑えるような新しい治療薬も開発されています。また日本で治験が進み、承認された薬もあります。
このホームページでは「血管腫・血管奇形に対する薬の研究を行なっている研究班」から、病気の説明と新しい薬の治療のことを、出来るだけわかりやすく紹介します。